春期講習も終わり、5年生の算数では4月に『旅人算』、6月から7月にかけて『割合』の単元の学習が始まります。何故この2単元を挙げたかというと、これらの単元で算数を非常に分からなくしてしまうことが多いからです。今回はこれらの単元の概要とどう対処することが最善なのかを説明致します。
単元の問題点
これらの単元が子供に困難さをもたらす最大の理由は抽象性です。
以前からも何度か説明してきましたが、この抽象性というものは子供にとって最も厄介と言える内容の一つです。しかし『旅人算』・『割合』では抽象性と言っても意味が異なります。
旅人算の抽象さとは
旅人算が抽象であるということに違和感を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
それは『抽象性とはもっと目に見えないことについてで、旅人算というものは動きだから具体的だろう』という考えから生まれる違和感だと思います。
それは『速さ』の単元ではなく、『旅人算』の単元であることがミソです。
旅人算は速さという単元の中で、2人以上が動くことを処理する単元と言えます。確かに動きである以上は具体的な内容に思えますが、ここで重要な事は2人以上だということです。
大人からすると、別に1人でも2人でも大して変わらないだろうと思われるかもしれません。しかし、子供は大人が信じられないぐらい複数のものを同時に捉える・予測や推察するということが出来ないのです。
つまり、『速さ』はまだ具体的でも『旅人算』ではもはや想像が出来ないため抽象性が生まれてしまうと言えるのです。
割合の抽象さとは
割合の抽象さはとても分かりやすいと思います。30%や6割などのようなものは現実には存在せず、便宜上過去の人間が勝手に考え作った目に見えない概念です。
単元丸ごとが抽象性の塊です。ですから、旅人算より純粋に抽象性が関わり子供を出来なくさせてしまうのです。
その後
本来はこういった単元を通して抽象性の練習を行い理解を出来るようにしていきます。そして、今後のより抽象性の高い単元も問題なく対応を出来るようにし、最終的に大人もビックリするほど高度な問題も解くことが出来るようになっていくのです。
ですが現状、練習にもなっていないような状況も多く、ただただ時間だけ流れていくことになってしまう子が増えています。
抽象性が何故問題なのか
ではそもそも何故抽象性は子供にとって問題となるのか、これを考えることが割合だけでなく今後の抽象度が高まる内容を克服する方向性を見つけることになります。
抽象的な内容というものは基本的に目に見えない他人が考えた概念のようなものです。
つまり、抽象的な内容を理解するということは他人の考えを理解するということと同義と言えます。最近の子供は特に顕著にこのことが苦手になっていっているように感じます。それが問題なのでしょう。
抽象性を理解するために必要な要素
それでは上記の問題点をクリアし抽象性の高い内容を理解するためにはどうすれば良いのか、私は下記の2つの要素が必要になると考えています。
①自分の考えではなく他人の考えを使い練習する意識
いやいやそんなことは当然だろうと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現代の子はビックリするぐらい、この当然だと思われることを出来ません。そもそも、人によってはこのような発想すら無い子もいます。
社会の風潮に依るものが大きい気がしますが、学ぶことに関してはデメリットの方が大きいと思います。
そのため、まず前提として学習時にならった内容通りに練習するという姿勢を学ぶことが必要です。
②考えて練習をする意識
またまたそんなことは当然だろうと思われるでしょうが、これがまた本当は難しいことなのです。本当の意味で『考える』ということを自然に出来ている子供はほとんどいません。
ではまず『考える』ということはどうすることなのでしょう。
例えば、夕飯のメニュー決めで言うならスーパーの特売で白菜や魚が安いから鍋にでもするかということは『考える』とは言えないのです。本当の意味で『考える』というのなら、
・食材の旬の把握
・自分の調理技術やレシピとの兼ね合い
・調理時間の兼ね合い
・栄養バランス
・子供の給食の献立と被らない
・食費
・冷蔵庫に残っている食材とのバランス
・マンネリ化の回避
・時にはお父さんのお昼を考えてあげる
etc・・・
などと、ここまで検討していき最適解を見つけることと言えます。
どうでしょう、とても大変ではないでしょうか?
これを子供が勉強において自然に出来ると思われるのであれば、夕飯の献立を考えることなど誰も悩み苦しむことはないでしょう。それはあまりに見通しが甘過ぎると言わざるを得ません。
では大抵の子供が行っていることは何なのかというと、基本的に『丸暗記』です。
先程の料理で言えば、カレーの作り方を『丸暗記』した子供にじゃあ肉じゃがを作ってと言ったとこら、肉じゃがの作り方は知らないから作れない、というようなことです。
肉じゃがを見たこともない子供なら仕方ありませんが、そうでないならば何となく作れなければおかしいはずです(うまく作れたかどうかは別にして)。他にもサッカーボールを遠くに蹴る方法を学んだ子がバレーボールの蹴り方が分からないと言うようなものです。
現実には料理やスポーツだとこういう事はほぼ起きないでしょう、だがこと勉強になると途端に急増してきます。これもまた勉強には抽象性という目には見えない内容だからこそ起きてしまうのでしょう。
では、どうやって本当の意味で『考える』ことを行い練習できるようになるのかと言うと、一番大事なことは基礎理論を理解することです。ここで重要な事は理解です、解けるではありません。何となく『丸暗記』をしてもある程度までは解くことは出来ますが、抽象性を増していくに連れ理解をしていないと解くことは出来なくなります。5年生の途中までは上位にいたけれどもその後下降線を辿る子供に多いパターンです。
基本理論を理解することでようやく子供は問題を区別することが出来ます。『こういう特徴があるから、この問題は○○の単元の内容と言えるんだ』と区別が出来るため、たとえ初見の問いでも解くことが出来るのです。この一連の思考を私は『考える』ということだと思っております。
これを可能にするためには毎回の単元において理解をしなければならない基本理論を子供に伝え、それを理解をするように練習させることが必要になります。
これを塾の授業でどのコースでも習っていると考えることは楽観的過ぎます。ここまで細かく筋道立てて授業に対して考えている講師は1割ほどしかいないと思います、そして上位コースが担当の中心となります。腹立たしくも大半はただ教材に載っている内容を話しているに過ぎません。それで本当の意味で『考える』ことが出来るのならば、受験に対して誰も苦労はしないでしょう。
崩壊しないために
ここまで、何故割合などの抽象性の高い単元が子供に対して難しいのか、それを克服するには何が必要なのかをお伝え致しました。
次に具体的に上記を踏まえ、算数を崩壊しないようにするにはどう行うことが最善なのかを説明致します。
最も重要なことは準備をしておくことです。
皆様が大きく間違いを犯していることは、問題が表面化したらどうしようかと検討することです。それでは遅いのです、問題が表面化した際にはすでにかなり深刻な状況に陥っていることがほとんどなのです。中学受験は6年生の2月というゴールがすぐに待っております。そこまでに立て直しを図りさらに巻き返していく、これは決して安易なことではありません。
そうであるならば、問題が起きる前から正しい方法・適切な習慣で行えるよう準備をして迎えれば良いのです。
そのタイミングというものは人それぞれです。それこそ最善は生まれた瞬間から整えることでしょう。中学受験と言えども始まりは入塾してからではありません。もっと以前からの学習習慣・人格形成・モラルや責任感などの全てが関わり、それが今回は中学受験の学習に出ているだけなのです。
とは言え、生まれた瞬間からなどというのは現実味がありませんので、算数の観点から言える具体的なタイミングを考えると、最善は4年生からだと今は思えます。そして立て直しを考えた上で、上位を無理なく目指すことが出来るギリギリのタイミングはこの『割合』の単元を学ぶ前だと言えるでしょう。
もちろん、子供が生まれ変わった如く必死に頑張ってくれるのであれば、6年生からでも何とかなるのでしょう。しかし分かって頂きたいことは、そうやって時期を遅らせれば遅らせるほど子供は状況の立て直しを図ることと、現状のどんどん厳しくなる問題への対応を同時に求められるという過大な負担を強いられる、ということです。
こういった観点から環境を整え準備することは早ければ早いほど良いと言え、遅くとも5年生の5・6月にはご家庭としてどうするかを検討・決定をするべきだと思います。
まとめ
・割合などの単元から本格化する抽象性が子供にとって非常に問題となる。
・抽象性の難しさは『他人の考えを理解すること』と言える。
・抽象性を克服するには
①他人に習ったことを実行すること
②考えて練習すること
が必要になる。当たり前のようで、現状これを必要な水準で行えているかどうかは甚だ疑問。
・算数を崩壊させないようにする最善は『準備』をしておくこと。
・問題が表面化する時には状況はかなり悪化している、その前から問題が起きないようにしておく意識と環境作りが最も重要。
中学受験の要は算数と言われます。内容というよりも、テストの形式的な意味合いが強いのですが。
その重要な算数を5年時から遅れを取らずに積み上げていくことが無理なく上位を目指していく基本方針になります。
最近の中学受験は塾だけで成功することは非常に難しくなっております。その問題点を認識しどう対処をするのか、環境を作るのかは保護者の考える領域になります。是非、最善を尽くし中学受験の成功を勝ち取ることをできるだけ多くのご家庭が行うことを願っております。