算数が出来なくなる理由の新発見

算数のコラム

2023年2月において受験を行った世代は、受験勉強が本格化する4年生からコロナ禍の環境で過ごしてきた世代でした。今回、この世代を指導していく内に今までモヤモヤとしていたもののはっきりと説明できなかった算数が出来なくなる理由の大きな一つを発見することが出来ました。今回はこの内容を説明致します。

算数が出来なくなる理由

今まで受験算数の指導をしていく度に『何だか、出来ないなぁ』と感じることが多くなりました、特に近年その傾向は大きくなっています。αゾーンでもおいおいと思うことも無いわけでは無かったです。特に、一人で全科目の指導をしている時期からSAPIXに指導の場を変えた際に非常に大きくギャップを感じました。そのギャップの理由が今までモヤモヤとして感じることは感じるが明確にはっきりとこうだと言えることが出来ませんでした。それが今回の世代を指導することと、家庭教師という集団指導より子供に近い環境で指導したことではっきりと感じることが出来ました。それは

『四年生の内容ビックリするくらい理解出来ていない』

というものでした。

どういうことなのか

上記の内容を聞いても保護者によっては、
・うちの子は4年生の単元をちゃんと解くことが出来ている
・4年生の内容が理解出来ていないなんて起こるのか?
などのようにご理解を頂けないと思いますが、現実に指導をしている身ととしては非常に大きく理解が不足していることが確認できました。
具体的に説明致します。

①『解ける』ではなく『理解』が出来ていない

4年生の単元で代表的な内容といえばいわゆる特殊算と呼ばれる、和差算・消去算・つるかめ算・過不足算などでしょう。確かにこれらの単元を『解く』ことが出来る子は多くいると思います。ただし、それはストレートに4年時の文章とそっくりであればという前提が付きます。これは機械的に当てはめて『解いている』だけであり、『理解』をして使いこなしているわけではありません。この差は大きいものです。

指導をしている中でこういう例もありました、消去算ですが本当に機械的にこなしているだけのパターンです。
例題:
りんご✕2+みかん✕11=420円
りんご✕4+みかん✕17=740円
という消去算でこの後、みかんを同じ数にそろえて計算を始めました。

確かにこの子は答えを求めることが出来ましたが、ただ機械的に真ん中をそろえるということをしていただけでした。

かなり極端な例ではありましたが、やり方の理解もなくまたそのチェックもなく過ごしていくことで生まれる実例です。ここまで極端でなくても似たレベルの子も多くいます。

他にも例えば、高さとは何なのか、面積とは何なのか、小数とは何なのか、分数とは何なのか、割り算で割り切れるということがどういう意味を持つのか、もしくは余りとは何なのか、などなど4年生の内容の中で本当の意味で理解をして欲しい内容はいくらでも出てきます。これらをちゃんと理解をして出来るようになって頂くことが大切なことです。

②4年の内容が理解出来ていなくても、その後が分かれば良いのでは?

4年生の内容なんて簡単な内容じゃないか、それよりも5年生や6年生の内容が重要なのだからそれが出来れば良いのではないか?
そう思われる保護者の方もいると思います。正しい部分もありますが、大きくは間違っています。確かに受験算数において大半は5・6年生の内容から出題されています。けれども、一部は4年生の内容そのもので出題される問いもあります。そしてもっと大きな理由は、4年生の内容を理解していなければ5・6年生の内容を深く理解出来ないという点です。
算数・数学の内容は全て螺旋構造としてカリキュラムが組まれています。つまり以前に習った内容が次の内容の底を固めてくれるのです。そのボトムの部分がそもそも不安定な状態の場合、どうやっても高い次元まで次の内容を積み上げることは不可能です。

ここで重要なことは、問題が『解ける』ということが大事な状態なのではなく『理解』をしていることが大事なんだということです。この違いを正確に把握し、子供に指導をすることは保護者の方にはとても難しいことだと思います。はっきりと言ってしまえば、無理です。上記の4年生での理解して欲しいポイントを把握するにには入試問題を理解しなければならなく、更に指導を経て子供が分からないポイントを把握する必要があるからです。

では、何故このようなことになってしまうのでしょうか。

何故こんなことが起こるのか

①塾側の人材不足

そもそも根本的な人材不足なことは別に塾業界に限らず、どこの業界でも言えることでしょう。
そしてもう一つ言えることはとりあえず人は足りていても優秀な人材不足です。中学受験業界は少子化でも不況下でもコロナ禍でも受験者数が減らなかった、ある意味安定している業界と言えるかもしれません。例えば、SAPIXではどんどんと生徒数は増加しており、校舎やコース数は増えております。そのスピードに優秀な人材の育成が追いつくでしょうか。

さらに問題なことは、その限られた人的リソースを4年生に振り分けるかどうかということです。
校舎によっては4年生のコースにも6年生の上位を担当するレベルの人を配置することもありますが、残念ながら担当するコースは上位コースに限られます。逆に状況によっては、上位コースであってもこの人で大丈夫かと思うようなレベルの講師が担当になることもあると思います。
思い返してみると、私自身もSAPIXに勤務時は5年生と6年生のみを担当しておりました。4年生を担当したのは初年度の半年のみです。

これは大手塾でも小規模塾でもあまり関係なく、どこでも抱えることになる状況だと思います。物理的に全てを優秀な講師が担当できるという状況は校舎でのコースが各学年2コースぐらいが限界なのだと思います。必然、そのシワ寄せは4年生に集中してしまいます。

②コロナ禍

やはりコロナ禍の影響はあるのかと思います。もちろん、その前から感じる問題でしたがコロナ禍によってその問題が大きく鮮明化したということが正しいように思えます。

まず、小学生に映像授業は無理です。映像授業で問題なくやれる子は、どの環境でも自学自習が出来る子です。そのため、大半の小学生にとっては適さないやり方です。
この映像授業という適さないやり方の影響を大きく受けた世代だからこそ、今まで以上に4年生の内容が理解出来ていない状況が生まれたのだと思います。

では、コロナ禍が収束したらその状況も改善されるのかと言えば、そうとも言えないと思います。何故なら、3年間も続けたからです。半年などの短い時間ではなく、3年間という一つの期間と言える時間続けました、これは大きなことだと思います。もちろん、ずっと映像授業だったというわけではありません。ですが、様々な内容がコロナ禍を経て変わっていきました。これが全て元に戻るとは思えないです。また、大学生のアルバイトなどはその状況が普通なのです、急に変えられるとは思えません。

③4年生だから幼いという幻想

4年生なんて10歳になるかならないかの年齢なんだから仕方ないじゃないか、まだまだ幼いのだからおいおい出来るようになれば良いだろう、こういった意見を耳にしたことは保護者・講師の双方から何度かあります。これも大きな理由に感じます。
本当に厳しい言い方をするのであれば、こういう考えを持つのであれば中学受験に臨まれない方が良いと思います。

こういった物言いにお腹立ちの方もいるとは思いますが、残念ながら『年齢』や『幼さ』を理由に現状の改善を考えない場合この先も変わらないケースがほとんどなのです。
別に6年生の終盤と同じテンション・意識で4年生を過ごせ、などと言う気はありません。そうではなく、4年生は4年生なりに必要なことがあるのです。そしてそれをクリアーしなければ総崩れしかねないということです。そうであるならば、クリアー出来ていない事項に関しては『年齢』や『幼さ』を言い訳に先延ばしをして良いわけがありません。

これは常々、私が早く対処を検討して欲しいとお願いしていることにも繋がることです。

方針変更

私は今まで4年生という時期は『習慣付け』が出来ていれば大丈夫だと思っていました。習慣付けが出来ていれば、その後の5・6年生の時間で成長させることが出来ていたからです。

しかし、近年の状況を考えるとその方針を変えようと思います。

5年生以降で何とか出来ていたのは習慣付けが出来ていただけでなく、あくまで私が最低限必要と考えている4年生での内容を理解させていた上で、でした。私にとってはあまりに当たり前の内容だったため、ここまで鮮明化されないと気付きませんでした。
つまり現在は、その最低限必要な内容もまともに身に付いていない状況に陥っていると思います。これではいくら習慣付けが出来ていたとしても無理です。そして、その習慣付けも表面的なものに過ぎないでしょう。

そのため本当に中学受験を何とかしようと考えるのであれば、今や4年生の時点から正しい指導を受けなければ、高い目標に届くことは難しいと思います。

中学受験を成功させるために

現状の中学受験を一言で説明するなら、塾に通うだけでは難しい受験、と言えると思います。これは様々な場面でお伝えしている通り、社会の変化やそれに伴う保護者の意識の変化・さらに中学受験の裾野が広がっていることによる理解の少ない状態で臨む家庭の増加、などなど色々な理由が関わっております。

この変化にストップが掛かり、方向性が変わることはすぐには無いと思われます。昨今、カスタマーハラスメントという言葉も使われており企業も顧客に全面降伏するいわゆる『お客様は神様です』的風潮にも対処をする流れも出てきましたが、それでも教育業界が舵をきるのにもまだ相当な時間が必要とすると思えます。まだまだ考えの甘い保護者に現実を伝え厳しさに向き合うことを要求するようなストロングスタイルな塾などは出てこないでしょう、少なくとも今の子供たちが卒業までには絶対に無理です。
そうであるならば、その状況に対して現状出来る対処を行うことが最善と言えなくても次善策とは言えるはずです。

保護者の方に強くお願いしたいことは、『まだ』や『いつか』などの先延ばしをせず現在の状況を検討し問題点・課題と向き合うことです。時間という武器は何もしなくても失っていきます、少しでも早く対処することが可能性を残す選択になります。子供が自然に自分の問題点に向き合うことはありません、まずは大人が見本としての行動を行いましょう。

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