東京神奈川での中学受験は2/1から始まります。しかし、再三お伝えしている通りこの試験日には大方の結果はすでに決まっています。本当の意味で競っている子というのはボーダー付近で争っている子たちになります。では最後に競える状態になるためにはどうすれば良いのか、それにはまず6年生に何がありどういう流れになっているのかを知ることが肝要です。
今回は受験学年である6年生の時期ごとの教材への理解とレベルごとの必要内容を土特について、8年間SAPIXの算数講師を勤め6年α1〜Aコースまでを担当した経験から説明致します。
土特(土曜志望校別特訓)の概要
まず名前に志望校と入っておりますが、前期の土特に志望校対策感はすべてのコースで全くありません。
- 曜日:毎週土曜日
- 時間:14:00〜19:00の5時間
- コマ:75分ずつ✕4コマ
- 科目:4科目全て
SAPIXの授業の中で初めて1日の中で4科目全てを学習することになるのが、この土特になります。
時間
5時間という数字を初めて聞いた時に殆どの保護者がちゃんと授業を受けきれるのだろうかと心配されます。けれども、子供はすぐに慣れます。大体2月中ぐらいで皆特に何事もなく受けることが出来るようになるものです。ここはSAPIXの優れている点だと言えます。低学年でも授業は休憩なしのぶっ通しで行われているため、通しで行うことに元々耐性があるのです。
逆にいつまでも慣れない子はそれまでの学習量が極端に足りていない可能性が高いため、補強が必須と言えます。
コマ
75分という時間は体感的にはあっという間に流れていくと感じる子供が大半だと思います。それぞれの科目での授業内容は演習が中心となっているため、問題を解いている時間が長いためです。
コース名について
前期中の土特は先程の通り、志望校対策感はありません。そのため、コース名に学校名が付いている意味は特にありません。多少、子供のテンションに関わることはあるかもしれませんが子供もすぐに意味はないことに気が付きます。
そのためコース決定は平常と同じくマンスリー・組分けの結果で成績順に並べたものになります。
特徴としては、男子コース・女子コースに分けてコースが作られます。絶対ではありませんが、ほとんどの校舎がそうしています。
土特の算数
土特の算数の内容は平常と全く違うことを扱います。個人的に平常・土特に優劣はなくどちらも等しく重要な内容と言えます。
土特の共通教材
全ての土特のコースで配布される教材です。
分野別補充プリント(以下分野別と呼称)
前期の土特算数での最大の目的がこの分野別を確実に出来るようにすることと言えます。
分野別と名前が付いておりますが、全て平面図形のバリエーションです。
平常で練習しきれなかった受験における特徴的なテクニックを練習します。ベンツ切り・四角形分割・正六角形などの平面図形における入試問題の基礎を学んでいきます。
復習テストがA・Bと2種類あるため、都合分野別は全部で3種類あります。
WS(ウィークリーサピックス)
平常のデイリーサポートに見た目そっくりな教材になります。
ですが、あまりこの教材は使わないことが多いはずです。後述のNプリントなどをあえてやらない上位コースがZなどを使うケースがありますが、少数派だと思います。
コース別使用教材
コース毎に扱うかを担当が選ぶ副教材です。
Nプリント
最上位コースで扱われるプリントになります。アルファベットでお分かりの通り、灘の1日目の問題をリメイクした教材になります。レベルは本当に厳しいの一言に尽きます。担当が扱える実力を持っている子供たちと思うコースでしかやりません。場合によっては女子の最上位コースでも扱わない時もあるほどです。
復習テストはありません。
Sプリント
一行問題を毎回10問集めたプリントになります。難易度としては侮れないレベルです。普通に入試問題の小問集合に出てきてもおかしくはありません。上位コースからミドルコースぐらいまで幅広く扱われることの多い教材です。
前期中は半分も正解出来ないことが大半かもしれません。しかし、夏に近づくにつれ『あ、これ以前にやったことのある問いだ』と気が付く子供も増えてきます。
復習テストがあります。
完全な余談ですが、このSはどういう意味なんでしょうかね。
SAPIXのプリントには度々Sが付きますけども。
基礎トレテスト
文字通り、基礎トレの復習テストです。基礎トレが定着していないレベル帯のコース向けです。正直、これを行っている時点で間に合っていないという証明ですからこれを続けていても状況は好転しないと思っています。根本的にこのレベル帯を抜けることを行うことが重要でしょう。
計算付きの10題と計算抜きの7題の2種類があります。
校舎によっては平常と土特の両方で基礎トレテストを行う場合もあります。でも平常のみで基礎トレテストを行う校舎はかなり少数派だと思います。
土特算数の重要さ
ネット界隈では『土特は参加しなくても大丈夫』や『土特の参加は塾のポジショントーク』などの話しを見ることがあります。場合によってはそうなることもあると私は思いますが、少なくとも前期の土特においては絶対にないと言えます。それは前期の土特の算数は入試に向けて非常に重要であるからです。
分野別の重要さ
土特の算数の重要さの第一は分野別の重要さです。そもそも論として、分野別は平常の単元内容とは独立して行われています。さらに前期の土特を通してずっと演習していく内容です。それだけでも重要だから用意されている内容であることは察せられると思います。
具体的には図形には固有のパターンというものがあります。また、よく使われる図形の解き方というものがあります。分野別ではそれらの典型例を演習していくことになります。中堅校ぐらいであれば同じ図形問題が出題されることもあり、上位校ぐらいまでなら方針立てなどはほとんど分野別の内容を元にしていきます。それぐらい重要な内容を演習していくのです。
達成度の見極め
そんな重要な分野別ですが、ではどのぐらい出来ていれば良いのかというと復習テストを満点取るぐらいです。私の思う許容範囲は✕一つです。見たら分かりますが、復習テストは本当に授業時のプリントの数字替えに過ぎません。そういった内容を満点が取れないレベルの復習を行っているならば、それが問題なのです。
分野別はどのコースでも必ず扱われている教材で、よほど尖った講師でなければ復習テストは必ず行います(稀に最上位担当の人で復習テストは出来て当然と配布のみの人もいないわけではありません)。
復習テストは6・7分強ぐらいが標準で、10分以上を与える様な場合は甘い講師と言えます。なんて短い時間で、と思われる人もいるかも知れませんがそんなことはありません。前述の通り復習テストは数字替えです。大事なことはこの形はこう見て考えることが出来ると反射的に出来るレベルまで仕上げてくる、ということです。
どう練習するか
ではどう練習すれば上記のレベルまで分野別を出来るようになるかというと、ポイントは毎日練習するということです。それこそ基礎トレレベルにです。
分野別のプリントは両面同じ問題です。表面を使い授業中に演習を行います。つまり裏面はまっさらな状態のままです、これをコピーして使うのです。土特後にコピーを10枚ぐらい取れば十分です。それを、まず帰宅後に1枚、日曜に午前午後で2枚、後は月火水木金土と自分が確実に出来ると自信を持てるようになるまで何度でも行えば良いのです。このレベルで練習を行います。そうすると、最初は10分以上掛かっていた内容が本当に5分以内にこなすことが出来るようになっていきます。そうすれば、1日の中での負担も5分前後と非常に少ない時間にすることが出来ます。1日に5分の時間を捻出することは誰にでも出来るはずです。ここまで仕上げて復習テストに臨むのです、ここまですると悪くても✕一つぐらいにはすることが出来ます。
上記のレベルで練習してくることが必要な復習テストを半分以下の出来という信じられない結果を出す子が毎年います。こういう子のやっていたテスト・家庭学習の内容を確認すると共通している事は、練習が全く足りないということです。酷い子になると、授業時のプリントの裏面を一度やり練習したと言う始末です。こういう勉強への姿勢がすでに日々の学習の積み重ねに差を生み、上位層との差をどんどん広げていく要因となります。
本当に2月までに成長をし、志望校に合格する確率を上げたいと思われている場合上記のような時間の食いつぶし方を改め本当に意味のある学習を行うように致しましょう。
副教材の重要さ
土特算数の優先順位はまず分野別であるわけですが、これだけですと授業75分のうち40分強の時間分と言えます。残りの時間分を考えると副教材を練習することが大きな意味を持つことが分かります。
それぞれのコースにて扱う教材は異なりますが、私が一番多くの子供に役立つと思っているものはSプリントです。
・Nプリント
そもそも扱っている子が少ないのと、このレベルであれば自分で頑張りNプリントから何かを吸収するレベルの子も多いため特段私からは何もありません。
・基礎トレテスト
これは基礎トレが出来ていないレベルの子供に演習として用意しているものです。大事な教材とは思いますが、基礎トレテストをどうこうではなくそもそも基礎トレテストを行っているゾーンから抜け出すことが重要なことです。家庭内での基礎トレのクオリティを上げ、授業内で問題なく出来ていると言えるようになれば良いのです。
・WS
たぶんこの教材をガッツリ行っているコースは少ないと思います。あるとすれば、Nプリントは厳しいがSプリントをやるのはという上位層だと思います。Nプリントと同じく、バツ直しが行えれば十分でしょう。
Sプリントの重要さ
SプリントはSAPIX偏差50〜60弱までの学校の小問集合に非常に役に立ちます。特に女子・共学校を目指す子に非常にオススメ致します。決して簡単とは言えないため、ある程度練習に時間がかかるという難点はあります。特に、平常での単元が進んでいない序盤は厳しいと思います。しかし、毎回の練習をしっかり積み平常での単元も進み重層的に学習が行えるとだんだん出来るものが増えてくるはずです。
授業内では10問全て練習はしないことも多いです。中にはあまり意味のない問いも入っているため、授業で行った問いだけ練習をすることで大丈夫です。こちらも復習テストがあるため、準備は必要ですが分野別と同じレベルの準備は時間的に無理だと思います。割とテクニック的な問いが多いため、手法を理解し覚える復習を一度ぐらいで何とかしましょう。
土特と平常授業の優先順位
保護者からの相談やネット界隈の意見として、『土特よりも平常授業の方が優先順位が高い』というものがあります。しかし、こういうまことしやかな都市伝説を信用していると痛い目に会うので注意が必要です。
優先順位?
上述の通り、土特の算数は平常授業の単元とは全く異なります。土特では、分野別・副教材の内容という平常と異なる知識を定着することが目的です。これは土特・平常どちらが優先などということはなく、どちらも出来なければならない内容だということです。つまり、優先順位などは無く両方ともやれなければなりません。
これをネットの噂や適当な塾での意見を真に受け、平常の復習をやっているだけで終わっているのであれば、どんどん上位とは差を付けられていきます。本気で上位を目指すのであれば、土特と平常の区別なく練習を積みましょう。
終わらないという相談
上記の様な話しをしていると、SAPIX時代から一定数『終わらない』という相談を受けることがあります。しかし、その問題も結局は2つの理由からだと分かり、それを解決するしか方法は無いことが分かります。
①練習不足
結局は5年生までの学習量が不足しており、1週間の中での学習量がそもそも6年生のレベルに達していないから。
↓
【解決方法】
子供に能力があれば土特の必要性を理解させ納得することで解決することが可能です。
それが難しいのであれば、家庭教師を付け平常・土特の内容の補助を行い学習効率を上げ1週間の学習量を増やすことで解決するべきです。
②意識不足
そもそもやる気のない場合が大多数です。別にこのタイミングになってからというわけではなく、もっと前からその状態のはずですから①の練習不足という問題も同時に相まって余計に出来なくさせているのでしょう。
↓
【解決方法】
土特云々の前に勉強面での大幅な改善が求められているため、もはや自力での立て直しは無理です。本当に指導力のある家庭教師を付け、少しでも早いタイミングでの改善を考えましょう。
家庭内での練習量について
前述の『終わらない』という相談の根本に関わることだと思いますが、まず忘れずにいて欲しい基本方針は、前期の家庭学習は全て行わなければならない、ということです。目的から考えていけば自ずとそうなります。
具体的に説明致しますと、最終的な集大成は6年生後期の内容になります、その際には、平常・土特に加えてSSと過去問が追加されます。大事なことは、前期の内容が終わりきらない子がどうして後期になるとSS・過去問も出来るようになるのかということです。はっきりと言ってしまいますが、終わらない終わらないとばかり言う子供は結局後期になっても出来ません。
先程の終わらないという子の問題点を説明した内容の通り、物事は連続しており決してぶつ切りではないのです。だから前期で出来ないことを克服しないで後期になるといつの間にか出来るようになっているなどのような甘い夢物語は現実には起きないのです。
保護者が一番持つべき意識・姿勢というものは、出来ないことを先延ばしにして楽をする、ではなく、出来ないことをどのようにして『今』出来るようにするか、です。
その観点からも、前期中の平常・土特は必ず両方こなさなければならないわけです。終わらないというのなら、終わらないやり方・処理速度などが問題になるわけです。その本質から目を背けず、保留して誤魔化さず、問題を解決しようとすることだけが物事を良い方向に進めてくれるのです。今出来るようにしようとする努力がこの先を良い方向に変えてくれるのです。
土特の難点
このように前期の土特の重要さを説明してきましたが、実は前期の土特にはある難点があります。
それは土特の内容が、前期マンスリーの範囲とは重ならない、という点です。これは算数において言えることで、他科目においては重なる部分もあるようです。
マンスリーには土特の内容が出題されないということはコースの昇降に土特は関係がない、それならやらないという子はそれなりの人数がいるように思えます。
確かに、コースの昇降というものは子供にとっても家庭にとっても非常に大きなものであることは否めないと思います。今まで一つでもコースが上がることを頑張ってきたわけですから当然のことだと思います。
その上で考えていただきたいことは、皆さんが受験勉強を頑張っている目的がコースなのでしょうか。そんなことはないはずです。真の目的は志望校に合格する確率を上げることのはずです。そのためには、一時のコースの昇降を目的の全てにせず、最終的な入試の結果を良くする行動を行いましょう。
それに、後期のマンスリーには土特の内容は非常に関係していきます。もっと言うと、入試問題には大きく関わる内容なのです。真の目的に向かい、2月から計画的に進めていくことが最善です。
最も重要な意識
一番考えて欲しい最も重要な意識は、土特の始まる前から準備しておく、という事前準備の意識です。
下位層から抜け出したいのであれば、平常と土特の両方を必ず頑張る必要があります。それは決して楽な道ではありません。それを『6年生になったから』という理由で今までやってこなかった子供が行えるでしょうか?
だから、6年生になる前から6年生になった時にこなせるような習慣を作って準備しておくことこそが最も重要な内容になります。
子供が、突然やる気を出す・突然頑張りだす・突然成績が上がる、などの奇跡は起きません。奇跡は勝手に起きるのではありません、何とかして起こすのです。まずは、そのための準備を整えましょう。