中学受験における算数という科目は合否を分けると言われています。そのため、保護者の方も算数を重要視して頂いているとは思いますが、非常にもったいない状況になっているご家庭が多く見受けられます。今回は、その原因を説明しどう解決したら良いのかをお伝え致します。
本当の山場
多くの保護者が算数だけでなく全ての科目において、受験直前の6年生夏期講習以降を重要視されていると思います。私も6年生で『大逆転』や『下剋上』(下剋上受験が流行った時期ですね)などの文言が毎年数名の面談アンケートには書かれていたことを目にしています。しかし残念ながら、こと算数という科目では6年生になってから、特に後期の夏期講習以降から『大逆転』や『下剋上』というものはほぼほぼ無理です。もちろん、可能性が全く無いとまでは言いません。現実、9月以降に指導依頼が来た子でSAPIX偏差60以上の学校に合格した子もいます。ですが、決して9月以降で算数偏差が10上がった!!などのような夢物語ではありません。ある程度の実力と下地が有ったから押し上げることが出来ただけです。逆に言うと、志望校に対し持ち偏差値とその差が10近く以上ある場合は集団講師時代を考えてもほぼ合格は勝ち取れませんでした。
最後の大逆転、劇的なストーリーに心惹かれると思います。しかし非常に残酷ですが、現実的にはほぼ有り得ません。むしろ、大逆転を声高に言ってくる講師なり塾には猜疑心を持って接してちょうど良いぐらいです。
多くの保護者が勘違いしていることは、合格へのスタートラインは6年生の後期ではないという事です。この時期からは、すでにスタートラインはとっくに切って走り続けている子どもたちの中でどうやって前に出るかを競っているのです。ここを大きく勘違いされている、もしくはキツイ言い方ですがここまで保留し続けたのではないかと私は思っています。
では、中学受験算数において本当の山場というのはどこなのかというと、それは5年生の後期です。5年生の9月から1月までの内容、これが受験において非常に大きな意味を持ちます。ここで先頭集団に置いて行かれぬようスタートを切れているかどうか、もうこの段階で特に上位校以上を目指すのであればすでに選別が始まっているのです。
何故5年生後期の内容が重要なのか
重要になる理由①
一つ目の理由は『入試問題に直結する基礎』を学習し始める時期が5年生の後期だからです。
算数の講師として私は、それぞれの学年の時期を下記のように捉えています。
・4年生受験勉強を継続するための習慣づくりの時期
修正:受験勉強を継続するための習慣だけでなく、計算や数字・図形の根本的な意味の練習の時期
・5年生前期
4年生までで持てた習慣を使い、受験問題の基礎を学ぶための下地づくりの時期
・5年生後期
夏期講習を通して学んだ内容を使い、新たに受験問題の基礎を身に付けるため全ての単元を学び直す時期
・6年生前期
まだ不十分である基礎を再度学び盤石にしていく時期
・6年生後期
固めた基礎を土台に、志望校への問題を確実に解けるように仕上げていく時期
内容は重複致しますが、上記から6年生後期は決してスタートラインではないとお分かり頂けると思います。仕上げの時期ですから、自分の持てている武器をどこまで研ぎ澄ませられるかを競っているわけです。決してここから武器を集めていく時期ではありません。もしここから逆転を考える場合は相当な負担を子供にかける覚悟を持って行うべきでしょう。
さて、具体的に5年生後期以前の時期の意味を説明致します。
4年生は基本的に習慣づくりでしかないと言えます。低学年から4年生ぐらいまでに、内容を先取りし上位層にいる子供を見ることがあります。残念ながら、そういう子の大半はその後成績を落とし上位層にはいられなくなってしまいます。では、同じく先取りでのアドバンテージで上位にいてもその後も成績を落とさずいられる子と落としてしまう子の違いは何かと言えば『学習習慣』です。先取りで知っているから解けるだけの子と、同じく知っていても定着するように練習する学習習慣を持てている子では自ずと結果は分かれるはずです。そして、先取りをしていなかった子でも『学習習慣』をしっかり持てていれば、その後追い抜くことが出来るわけです。
この時期は高度な内容や知識を教わることが大事ではなく、仮に教わったならその内容を定着させられるように『学習習慣』を持つことが重要なのです。
昨今の教育業界の状況やコロナ禍を通して、今や学習習慣のみでは不十分になりました。本当に上位を考える場合、4年生から内容にまで言及する必要があると思います。
5年生前期では実際に4年生よりは中学受験と言えるような内容を学習をしていきます。しかし、内容としてはかなりの割合を学校でも学ぶレベルです。問題となるのは、学校の授業よりも格段に早いタイミングで学習するということでしょう。その早いタイミングでも内容を定着させられるためには、4年生までで身に付けた『学習習慣』が重要になります。
内容としては、その後学校でも学ぶレベルになりますので、それを解けたから良いということではありません。あくまで目的は後期での入試問題に繋がる内容を学ぶためですから、解けるだけでなく仕組み・論理をしっかりと理解していかなければなりません。
上記のことを使い、5年生の夏期講習終了後の後期から実際の入手問題の基礎を学んでいきます。
では、入試問題の基礎とは具体的にそれまでの内容とどう違うのでしょう。
重要になる理由②
入試問題の基礎がそれまでの内容と大きく違う点は『抽象さ』です。
具体的には『比』になります、夏期講習で『比』を学び、後期から新たに今まで学んだ全ての単元を『比』を盛り込んで新たに学び直すというイメージでしょう。
こう書くと、比が大事なように思われてしまいますが重要なことは比という言葉ではありません。あくまで比という言葉の意味は、整数・小数・分数などのように数字の分類に近いものと思って頂いて問題ありません。ですから、比が大事なのではなく比という新たな数字を使って『抽象度の増した内容』を出来るようにするということが重要になります。
例えば、5年生の前期で速さを学んだ際に考える手順と同じ問題を後期で考える際には変わってきます。
例題
道の端から、AとBが同時にお互いの方向に向かって出発する。出会う地点が道の真ん中よりも75m離れているなら道は何mか求めなさい。Aは分速120m、Bは分速105mとする。
前期の解法
AとBでは出発してから出会うまでに進んだ距離の差は75mの2つ分の150mになると分かる。だから150mの距離の差が出来るまでの時間が出発してから出会うまでに掛かった時間と分かるので、そこから道の距離を求めれば良い。
後期の解法
まず、注目するべきするのはAとBは出発してから出会うまでに移動時間が同じだと言えるという事。
↓
速さの比と移動距離の比が同じになる
という、入試問題の速さの問いにおいて非常に良く使う特徴を用いて考えると、AとBの速さ
の比が120:105=8:7から移動距離の比も8:7になると分かる。この比の合計の15が道の距離の比と分かり、半分の距離だと7.5ということを考え75mが距離の比でいくつになるかを考えれば良い。
本来は線分図などを使い説明し、より図示化し具体的に見せますが今回は割愛致します。
上記を見て頂ければ、如何にアプローチの仕方が変わっていっているのかがお分かり頂けたと思います。このように同じ内容も具体的な距離の差ではなく、『同じ』という数字的には分からない意味から言える特徴を考えそこから導き出せる内容を使って考えることが入試問題レベルの『抽象的な内容』を解く練習になるのです。このように具体的な数字ではなく、内容の意味や特徴から導き出せることを考えることが『抽象的』の意味の一つと言えます。こういった内容を夏期講習で比の計算方法を学んだあとの後期から本格的に学習していくことになります。
重要になる理由③
上記の抽象的な内容を練習することから言えることですが、この5年生後期の内容の理解・定着度で入試における算数の出来にもうすでに差が大きく生まれてしまうからです。
この理由は5年生後期の内容で入試問題の半分は作られているからです。大半の人は『入試問題』と聞くと学習内容の最後から作られている印象を持たれるでしょうが違います。5年生までの内容で半分は解けるのです。最上位校でも3分の1ぐらいは解けます。もちろん、5年生の段階で習った全ての内容を完璧にしている子など数えるほどしかいないことが現実ではありますが。
こういった内容である5年生後期で習熟度に差が生まれてしまう、その延長線のままであればもちろん入試の問題もそのまま差が出てしまうだけです。では、その後取り戻しは出来ないのかというともちろん出来ないわけではありません。しかしそのために行わなければならないことは何かというと、『頑張る』ということではありません、これが辛いところです。何故『頑張る』ことではないのかというと、他の子も『頑張る』からです。同じ『頑張り』であれば延長線でしかなく差は埋まらず、結果は変わりません。差を埋め結果を変えるための頑張りは『周りよりも頑張る』レベルの努力と言えます。ここまで行わければ、逆転というものは得られないのです。そこから、如何に最初に差を付けられてしまうことが厳しい状況を生んでしまうのかをご理解ください。
5年生後期で差を付けられないためのポイント
入試に直結する内容を学習し始める時期である5年生後期、ここで差を付けられないためのポイントは下記の2つと言えます。
- 確実な学習習慣を持てている
- 抽象的な内容を具体的な話しに落とし込んで考えることが出来ている
1つ目のポイントはご家庭の中で子供の様子をしっかり確認をしている保護者であればお分かりだと思います。もし、子供の様子を把握されていない場合はいち早く見てあげてください。
2つ目はそれぞれの単元においてどう行うのかということが多種多様すぎて、その都度出来ているか確認することしか無いと思います。一つ、これが可能な子なのかどうかの目安はその時期までに授業中の講師の話しを正確に聞いて考えているかどうかだと言えます。自分の何となくの判断でやらずに、教わった考えや解法を確認し練習しているかどうか、抽象的な内容を理解できるかはこういったことが出来るかどうかが影響が大きいです。
どちらともに言えることは、後期の始まる前からだいたい出来ているのかどうかを保護者は判断出来る内容だということです。だからこそ大事なことはダメだったという現実が出てからではなく、保護者はどうなりそうかを事前に考え重要な時期に入る前からフォローの体制を整えておくことだと私は思っています。現状、塾だけでは上記を整えることは難しいです。正しく中学受験の内容を指導できるレベルの家庭教師を検討されることは必要になるはずです。
実際に成績の数字に悪化が見えてきた時には、実はもうすでに学習習慣・勉強方法は崩れていることが多いです。何度もお伝えしている内容ですが、保護者は事態を甘く考えず、常に先を考え、早く行動し、体制を整えておくこと、これこそが一番子供に負担を少なくした上で成長を遂げやすい方法です。
本気で子供の中学受験を成功に導くことを望まれるのならば、常に保護者が先を考えていくことをお願い致します。